標高1300mほどに位置する長野県原村の八ヶ岳農業実践大学校。今月はじめ、その広大な敷地の一角にある作物が試験的に植えられました。
ホップです。
かつてホップの生産地だった八ヶ岳
ホップといえばビールづくりに欠かせない材料。ビールが海外からやってきたお酒であることもあり、ホップもどこか「外国のもの」というイメージがあります。でも、実はホップは日本にも自生していた植物で、明治時代には北海道で野生のホップが見つけられています。
その後国内でのビール醸造が行われるようになると、北海道など寒冷な地域を中心にホップ栽培も盛んに。八ヶ岳南麓や西麓も、そんなホップ生産地のひとつでした。
長野県でのホップ栽培は大正期ごろからはじまり、北部に位置する長野市や中野市のほか、八ヶ岳の麓エリアなどが生産地になりました。戦後になると一気に栽培が盛んになり、1960年代には長野県内のホップ栽培はピークを迎えています。
ですが、その後輸入ホップの増加や後継者問題などもあり、ホップ栽培は下火に。2000年を迎えるころには長野県内のホップ栽培はいったん終わりを告げました。
ホップとビールの若手生産者が登場
そんな「かつてのホップ生産地」である八ヶ岳エリアですが、ここ数年新たなホップの担い手が登場しています。
たとえば、八ヶ岳南麓に位置する山梨県北杜市にはホップ栽培を行う北杜ホップスが誕生。2014年当時失われかけていた北杜市原産の「かいこがね(甲斐黄金)」という品種を引き継ぎ、2014年に試験栽培をはじめ、現在では「タッチダウン」で知られる八ヶ岳ブルワリーなど地域のブルワリーにホップを提供しています。
また、長野県茅野市の8peaks BREWINGも、ホップがひとつのきっかけになって生まれたクラフトビールブルワリーです。このブルワリーを立ち上げた齋藤由馬さんは、実家が花の農家。「花」としてのホップに興味を持って調べるうちに、八ヶ岳エリアがかつてホップ栽培が盛んだったことを知ったことが、この地域でクラフトビール醸造をはじめるきっかけになりました。
齋藤さんがたびたび語ることのひとつが「その土地だからできるビールを、その土地で飲むこと」の価値。以前からいずれは八ヶ岳産ホップ100%のビールをつくるという夢を持っていました。
若い生産者と実践大がつながって実現
こうした若い生産者さんの登場が、地域に新しい動きを生んでいます。今回の試験栽培も、休耕地の活用法を模索している八ヶ岳農業実践大学校と生産者さんがつながり、3社が協力する形で実現しました。
実践大の奥久司先生によると「私の知る限り、実践大でホップの栽培は初めて」とのこと。「話題性もあるし、実践大を知ってもらって、来てもらうきっかけになってくれれば」と話します。
今年はまず実際に栽培が可能かを試すため、17株のホップが植えられました。
植えられたのは「信州早生(しんしゅうわせ)」という品種。1910年に国内でつくられ、現在も国産ホップのなかで人気の高い品種です。レモングラスのようなさわやかな香りが特徴的なんだとか。
地下茎と呼ばれる根のような部分を植えると、2〜3週間ほどで芽が出て、蔓状に伸びていくんだそうです。
今回は6月初旬に植えつけを行い、順調に育てば9月半ばごろにはホップの収穫ができる見込みです。
八ヶ岳のホップ栽培復活の一歩にも
ホップは冬になると蔓の部分が枯れますが、地下茎は残って越冬し、暖かくなるとまた芽を出す植物。早い時期から霜が降りる(地中の水分が氷結する)こともある原村で、地下茎がしっかり育つかといったところが、今年の試験のポイントになります。
とはいえ、もともと八ヶ岳エリアはホップ栽培に向いた土地でもあります。実践大もホップ栽培の経験こそないものの、敷地内には以前からホップが自生していたりもしたんだそうです。
栽培がうまくいけば、8peaks BREWINGによる原村産ホップ100%のビールなどが生まれる可能性も。また、奥先生は「高冷地でも栽培できると証明できれば、ホップ栽培をやろうという人も出てくるのではないか」といった期待もしているそうです。
クラフトビールのブルワーが増えている八ヶ岳エリアですが、ホップの産地としての盛り上がっていく可能性も。ホップから醸造まで一体となったビールづくりの土地になれば、ますます面白い地域になりそうです。