諏訪エリアでスタートして60年以上。今では長野県のソウルフードと呼ばれるまでになっているラーメンチェーン・テンホウの魅力に迫る連続企画も、いよいよ最終回。
前回に引き続き、テンホウの大石壮太郎社長にお話をうかがっています。
今回は地域で愛されるテンホウの企業文化のお話なども見えてきますよ。
傲慢だったテンホウ・暗黒の時代
——口コミサイトなんかで絶賛されるようなタイプのお店ではない。だけど、「テンホウは絶対外せない」というのは、この地域の人がみんないいます。
嬉しいですね。でも、そういってもらえるのって、僕の感覚だとここ7〜8年です。それまでは「安かろう悪かろう」という、ただ「チープ」というイメージが先行していた。
実際、お店自体も褒められたものではない時代があったんです。20年くらい前ですが、そのころって創業から時間も経ち、それなりにファンもいてくれたので、いろんなことが「当たり前」になって、従業員の気持ちが緩んでいた。みんなちょっと天狗になっていたんだと思います。
それでも、ある程度売り上げはあったんですが、ちゃんと見ていくと年々下がってるんです。そりゃそうですよ。美味しいお店は増えてるわけだし、そのなかで接客やお店づくりが雑になれば「テンホウでなくていいや」ってなりますよ。
——お客さんが「当たり前」って思うんじゃなくて、働いてる人の方がいろんなことを「当たり前」って思ってしまっていたんですね。
僕はそんなころに戻ってきてお店に関わり始めたんですけど、もっとみんなでニコニコワイワイ働けるところにもう一度変えたいと思ったんです。
それでいろんな経営理念を作り直して、環境整備を進めて、やっとここまでこぎ着けた。そうしたら、ここ数年いわれることが変わってきたんです。「チープ」でなく、「コスパが高い」って。
——あー!
相変わらず書いてくれる口コミの量は圧倒的に少ないんだけど、書かれる内容が変わってきたというのを感じ始めたのがそのころです。本当にありがたいです。
創業60年の今、過去最高を更新する店舗も
——お客さんの反応が変わったのはやっぱり感じますか?
ここ4年ほどはそれが結果にも結実してきています。それまでずっと「前年対比100%の売り上げをめざせ」っていってきたんですね。だけど、「100%なんてチマチマしたこといってないで、130%とかめざせ」っていったんです。「そんなの無理に決まってるじゃないですか!」っていわれてたんだけど、ある店舗がすごく頑張ってくれて前年対比125%くらいの結果を出したんです。
——えー! すごい。
で、面白いもんで「できるんだ」ってわかるとみんな上限が外れるんです。それから「うちは117%です」とか「110%です」とかなってきて、最高で137%くらい行ったかな? あれから文化が変わったような気がします。
——創業直後の成長期ならあると思うんですが、創業50年、60年を超えてその伸びはすごいですね。
いや、僕はできると思ってたんです。だって、もっと売り上げがあった時代があったんですから。ピーク時からずっと下り坂を続けていたんです。それから少しずつ持ち直してきたのが今。実は今年の7月に過去最高売り上げを記録した店があるんですよ。オープン景気超えちゃったんです。
景気に左右されない第2のキッチン
——それってどのお店ですか?
富士見店です。
——ああ、国道20号沿いの。
はい。うちってそもそも、バブルとかリーマンショックとか景気にあまり左右されないんですよ。いいときも変わらないけど、悪いときも変わらない。
——確かに「景気がいいからテンホウに行こう」とはならないですもんね。
もっと高い店行きますよね(笑)。逆にちょっと増える要素になるのが、野菜が高騰したとき。材料が多少高くなっても基本的に料理の値段は変わらないですから、タンメンとかチャーメンとか野菜の多いメニューが人気になるんです。お客さんに聞くと「野菜が(高くて家には)ないからテンホウに食いに行けっていわれて」なんて(笑)。
——完全にキッチン扱いですね(笑)。
ありがたいですね。
——実際、安いんですよね。今、ラーメンって1杯800円とか1,000円するのも普通だったりするじゃないですか。それが300円台で食べられたりする。さらに餃子のサービスデーとかテンホウの日(毎月14日。タンタンメンシリーズが140円引きになる)もある。
あれも父が昔苦労して貧乏だったころに「安くお腹いっぱい食べてえじゃねえか」ってことで始めたんです。けっこう奉仕主義タイプなので、自分たちが儲けるよりもどんどん還元していった。結果的にそれで認知されていったのでよかったんでしょうけど。ただ、経費も上がってたりするので、そろそろ限界です(笑)。
新メニューは店舗が開発
——テンホウといえば、メニューも多いですよね。季節メニューもたくさんある。あれってどんなふうに開発してるんですか?
前は会社側で開発してたんです。それを全店舗でやっていた。でも、それも最近変えました。お客さんに好き嫌いがあるように、スタッフにも好き嫌いがあるわけです。だから、新メニューもスタッフによっては好きじゃないって人も出る。そうすると結局スタッフも積極的に売らないんですよ。でも、自分でつくったものになれば「俺がつくったんで、食べてみてくださいよ」ってオススメするでしょう? そうすると結果的に売れるし、お客さんとのコミュニケーションも取れる。いいことづくめなんですよ。
だから、5年くらい前かな? 各店舗で「やりたい商品全部やれ!」っていうようになったんです。それで今は店舗から上がってきた商品提案を、みんなで食べてみてやるかやらないかって決める形にしています。
——あーそれで。テンホウって店舗によって違うメニューあったりしますよね。
店舗のスタッフで情熱を燃やしている人がいたりするんです。
——たとえば、どの辺のお店がメニューが多いですか?
岡谷の南宮店とか多いですよ。女性のスタッフでそういうのが好きな人がいるんです。スパイシーもやしラーメンとか、辛い系が多いんですけど。酒飲みで辛いものが好きな人なんです(笑)。そこから上がってきてヒット商品になったのが辛味噌野菜ラーメン。これは他のお店でもどんどん取り扱うようになってます。
「裏方を表に出したい」からコラボする
——本当に積極的にいろんなことをスタッフさんに任せているんですね。
僕はほぼ指示とか命令をしないようにしたんです。「責任持つから好きにやれ!」ってタイプなんで。「そんなんじゃ会社を統率できないだろ!」っていわれたりもするんですけど、そもそも統率って必要なのかなって思うんです。統率して命令してるときは命令待ちだから、会社がいわないと何もやらないでしょ? で、会社を向いて仕事をするようになると、お客さんを無視しちゃうんですね。だから、「こっちなんか見なくていいからお客さんを見ろ」と。それを突き詰めていくとこういう形になる。
——メニューも多いですけど、コラボ商品も多いですよね。僕、餃子用の酢がすごく好きなんです。
内堀醸造さんにつくっていただいたものですね。あれも実は先方から提案してくれたんです。たまたま内堀醸造の会長さんが店に来たら、ほとんどの卓で餃子を食べてる。「なんだ、テンホウっていうのはこんなに餃子が出るのか。よし、餃子に合う酢を俺がつくっちゃる!」ってことで、お呼びいただいて。
——そうなんですか! ちなみに、いつも悩むんですが、あれって酢だけで食べるのを想定してるものですか? それともやっぱり酢醤油にする想定?
あれは酢だけ食べることを想定してつくっています。基本、僕らは昔から酢しか付けないんですよ。醤油もラー油も入れなかった。
——そうなんですね! 確かに餃子の専門店なんかに行くと「酢だけでどうぞ」ってお店もありますよね。
そういうところってだいたい具自体に味付けしてあるんですよ。僕らもよそに行ったときは、まずそのまま食べてみて、それで醤油を入れるかとか決めています。
——ほかにもコラボ商品が多いですよね。八幡屋礒五郎さんの七味とか。
あれは八幡屋さんにお出会いしたとき「最近いろいろつくってますよね。うちの七味もつくっていただけません?」っていってみたら、「いいよ」っていってくれて(笑)。タカチホさんとのコラボも同じような感じでした。
——「テンホウの餃子味」のポテトチップスですね。あれは驚きました。
みんなにいわれました。「なんでポテチなの?」って(笑)。でも、面白いでしょ? あれは常連さんもスタッフも喜んでくれてよかったですね。
でも、酢なんかもそうですけど、裏方の業者さんって表に出ないじゃないですか。ずっと特定のメーカーさんのものを使っていても、その名前って知られない。スタッフといっしょなんです。スタッフも、商品ありきのころはただの裏方だった。でも、「この人がこの商品を提供してるんだ」って形にしたかった。店舗からのメニュー提案はそういう狙いもあってのことなんです。お客さんと会社のつながりを、商品じゃなくて人にしたいんですよね。
そうなれば、たとえば究極何らかの理由でラーメンを提供できなくなっても、「じゃあ、うどんにしよう」っていってもお客さんは来てくれると思うんです。
——なるほど。確かにテンホウがうどんを出したら、それはそれで食べてみたいですね(笑)。
人でつながっていれば、商品が変わっても着いてきてくれる。そういうお店になればいいなと思っています。
テンホウ特集第1回、第2回はこちら…
【テンホウ公式サイト】
みんなのテンホウ | 長野県のラーメンチェーン
http://tenhoo.jp/