今年も長野県原村の八ヶ岳自然文化園・特設ステージで開催されている野外映画祭「星空の映画祭」。毎日日替わりでいろんな映画が上映されています。
ラインナップには有名作や話題作ももちろんたくさんありますが、なかにはなかなか見ることができない、いわゆる単館系作品もあります。
今回は特別寄稿として、地元の映画ファンにそんな隠れた名作を紹介してもらいました。
諏訪地方の奇祭・御柱を動かす木遣り唄
長野県諏訪地方が誇る奇祭・御柱祭。山から里へと樅の大木を運び、やがて神殿に祀られた木は、神となり、崇められ、人々は五穀豊穣を祈る。この6年に一度しか執り行われない祭の最大の見せ場は、氏子を乗せたまま、急斜面を一気に滑降する“木落し”だ。しかしそんな木落しに欠かせないのが氏子が唄う“木遣り”である。祭りの安全を願い、人々を鼓舞する。はるか天まで突き抜けるような澄んだ歌声は御柱祭の華とも言われている。
ヤー ヤマノカミサマ ヨー オネガイダー
コレハ サンノウェー ヨイサー ヨイサー ヨイサー
巨木を切り出し、山から里へ。坂道を下り、川を渡る。その重労働には、人々のリズムと呼吸がぴったりと合うことが求められる。それぞれが声を発し、呼応するように音頭をとって繋いでいく。それがやがて木遣り(きやり)という唄となった。人々の共同作業には唄がつきものだ。
インドの民謡文化を描く『あまねき旋律』に漂う“懐かしさ”
さて、星空の映画祭である。2019年は『メリー・ポピンズ リターンズ』や『ボヘミアン・ラプソディ』、そして『グリーンブック』など例年にも増して音楽映画が目立つラインナップだが、なかでも注目なのはたいへんめずらしい小品『あまねき旋律』だ。
この映画の舞台はインド北東部のナガランド州。中国、ミャンマー、ブータン、バングラデッシュに隣接していて、多様な文化が流入し、数多くの民族が居住しており、わたしたちが想像する「インド」とはまったく異なる多様な文化が築かれている。撮影はナガランド州のペク県で行われ、美しい棚田を背景に、農作業にいそしむ人々に密着したドキュメンタリー映画だ。
彼女・彼らは大型の機械に頼らず棚田の準備、田植え、収穫から運搬までほとんど人の手で行われ、コンバインや脱穀機のモーター音のかわりに山々に響き渡るのは彼らの歌う民謡だ。まずひとりが音頭を取って声をあげると、それに続けて別の誰かが歌い出す。作業の間、山は歌声で満たされる。
彼らが歌う民謡「リ」は、アジアでは極めてめずらしい多声的合唱(ポリフォニー)。二部合唱から、最大では混声八分合唱で歌われる。収穫の時の歌。歩く時の歌。時と場所に合わせ、恋愛だったり、友情だったり、様々な歌が村中に響き渡る。ナガランド州ではインドからの分離独立紛争が半世紀近く続いていることもあり、他民族の侵略から伝統が守られてきた。ゆえにこの歌は世界でもまだほとんど知られていないそうだ。
それにしてもなんと郷愁に駆られる映画なんだろうか。美しい田園の風景もさることながら、わたしにはこの映画で登場する人々の顔が自分の祖母だったり、祖父だったり、近所のおじさんおばさんだったりに見えてきてしまう。歌でコミュニケーションをとり、歌で人々を動かし、つながっていく。ステージと客席という関係性ではなく、なんというか横のつながり、連帯だ。なぜだかとても懐かしい。思いがけず、むかし木遣りの美しい歌声に合わせ、皆でいっせいに御柱を引っ張った時のことを思い出したのである。
[星空の映画祭2019]
- 開催日
- 2019年7月26日(金)〜8月18日(日)
※8月2日(金)、8月3日(土)は休映 - 時間
- 20:00〜(開場=19:00)
- 会場
- 八ヶ岳自然文化園(長野県諏訪郡原村17217-1613)野外ステージ
- チケット
- 前売り券:おとな(高校生以上)=1,000円、こども(中学生以下)=500円
当日券:おとな=1,300円、高校生=1,000円、こども(小中学生)=500円
※未就学児無料 - 公式サイト
- 星空の映画祭 公式サイト
https://www.hoshizoraeiga.com/星空の映画祭 – ホーム
https://www.facebook.com/hoshizoraeiga/
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